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ワークライフバランスって生かさず殺さずっていうこと?

NPOとか地域活動という狭い文脈から「場づくり」を救い出し、自分らしく生きたい全ての人に届けるために公式noteを開設したNPO法人れんげ舎。どんな思いで発信を強化しているのか、前回に引き続き語りました。

【対談メンバー紹介】
参加したのは、note編集長に就任した志摩、発端となる問題提起をした中川、代表の長田の3名です。この対談は、2021年9月の三浦海岸で開催されました(プロフィールは末尾)。

連載全3回のうち、今回が2回目です。前回はこちら(↓)です。

場づくりの可能性はもっと広い

中川:れんげ舎で言ってる場づくりって、自分とつながった上で他者とつながって、新しい生き方をつくっていくものですよね。そういうのって、個人だけでなく、本気でやりたいと思っている企業の人とかもたくさんいると思うんです。

しま:私は一般企業でも働いていますけど、そういう世界の人たちにはピンとこない部分も多いんじゃないかなと思って。場をつくる側に回るなんて、自分とは関係ない話だと。会社は会社でしょって。なんて言うのかな、自分のことじゃないっていう感覚なんだと思う。

中川:それが普通だろうけど、これから企業が本当の意味で新しい価値を生み出していくときに、社員一人ひとりの個性とか、持ち味みたいなものを活かしながらやっていく必要を感じている人たちはいますよ。もう能力だけで差別化は出来ないから。

上辺だけじゃないその人らしさを引き出して、そのことを通して成果を生み出したい企業のみなさんにも、そういう捉え方をするんだったら、「場づくり」っていう観点が必要ですよって伝えたいです。

支配者が考えたワークライフバランス

長田:よくワークライフバランスっていうじゃないですか。仕事と家庭を両立しましょうって。

しま:バランスをとって生きようっていうやつですね。

長田:そうそう。なんかいかにも経営者の考えそうな。

中川:国策ですね(笑)

長田:まぁ国策なんだけど、あれは財界だと思うんだよね。支配する側の発想。だれも知らないんだけど、僕、大学では経営学科だったんです。それで、学生のとき経営学の人間の捉え方の浅さに驚愕したんだよね。

中川:なんか標準的な人間みたいな捉え方っていうことですか?

長田:あのね、古典経営学では人の動作の効率化ばかり考えていたの。「従業員は機械だ」という発想がベース。近代経営学になってやっとリアルマンモデルとかいってやっと「従業員は人間だ」になるんだよね。根っこが完全に支配者目線なんだよ。

有名な「ホーソンの照明実験」っていうのがあって、工場の1チームだけ照明の明るい部屋で作業させて作業効率を計測するんだけど、明るい部屋でやらせたら効率上がったから明るい部屋の方がいいと分かったって(笑)。それで、作業効率UPの要因は、部屋の明るさもあるけど、「重要な実験に自分たちのチームが選ばれた」という思いで士気が上がったことも影響してるって。

それで、職場の設備だけではなく、人間関係が生産性にも影響するということが分かったとなって、それが「生きがいの管理」という方向に行く。いまもやってることは大して変わらないんだよね。

しま:なんか、そんなに遅れてるんですね。遅れてるというか、土台が「従業員は機械」という考え方にも驚きだし、この時代でまだ引きずってるというのが・・・。価値を見出して実行にまで移すって、組織が大きくなるほど大変ですよね。

経営学は「欲求階層論」を誤用している

長田:有名なマズローの欲求階層論っていうのがあって、知ってるよね? こういうの(紙に書く)。

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人間の欲求は低次元なものから高次元なものまで階層構造を持っていて、低次欲求が満たされるとひとつ上の欲求へ、それが満たされるとひとつ上へと、ステップアップしていくという考え方なんだよね。

最下層の欲求は「生きるため」の根源的な欲求。「所属と愛の欲求」なんかを経て、最終的には「自己実現」とか、マズローは晩年に「自己超越」っていうのを一番上に書き加えたんだけど、とにかくそういう風になっていると。

中川:普段どう生きるかで考えているのは、一般的には一番上の自己実現の話としてすることが多いですよね。

長田:経営学では、これをむりくり「会社」に当てはめちゃうんだよね。マズローちゃんと読めばそんなこと出来ないんだけど、そうやって広まっちゃってるんだよ。欲求がステップアップしていくっていう分かりやすい部分だけを考えて、マズローが重要視した利己と利他の統一みたいなことは全然入っていないんだよ。

人を人として捉えていない。マズローの欲求階層論は性善説というか、人の清らかさと自立性を信じ切ることによって成り立っているんだけど、これを生きがいの管理の延長に据えちゃった。

みんな組織に自分を合わせることばかり考えている

しま:そういう話を聞くと、だからこそ「場づくり」って普通の会社にこそ必要だと思って。みんな自分は関係ないっていうか、誰かが場をつくってくれていてその中で自分を発揮しようみたいな考え方が大多数な気がするんですよ。

会社だって誰か一部の人が会社をつくってくれてて、そこにのっかるっていうだけで。その中で「うまくやっていこう」とかはあるんだけど「自分も場をつくろう」という発想にいかない。会社のシステムもそういう思いを受け止められないし。

長田:そうだね。会社や組織を前にすると、自分を場に合わせることばかりになるよね。場に関与する意識までいく人は少ないし、奨励されている会社も少ない。そうしたくてもやり方がわからないんだよね。

しま:でもこういう時代になって一人ひとりが自分が考えて決めなきゃいけないんだっていうところが、少なからず出てきているし、若い人が会社をつくるとかも、それはもうちょっと前からだけど。自分でどうにかしたいという欲求が出てきているのかなと思って。

だからこそ場づくりって、単なる居場所づくりってことじゃないんだよっていうことを知ってもらえると、必要な哲学なんだということが伝わるかなと。

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活かさず殺さず働かせるためのバランス

長田:ワークライフバランスっていうのは、れんげ舎では「生かさず殺さず」って訳しているわけですが…

一同:(笑)

長田:笑うけどさ、本当だよ。本質は「生きがいの管理」だからね。でも、生きがいっていうのは人の命そのものなんだよ。何に生きがいを感じるのか、何に自分を見つけるのかっていうのは、一人ひとり違うし、他人に規定されるものではないんだよ。

良い感じで管理して、本当と嘘を行ったり来たりしながら全部嘘だけになって、流れで結婚して家買ってローン組んで、だからこそしっかり働いてっていう、そういう社会構造だから。会社の利益と個人の利益の本質的な相剋を、いまこそちゃんと考えないとダメなんだよ。

中川:会社に限らず、人と組織が敵対してる感じってありますよね。どっちかが得をしたらどっちかが損をするって。

組織の奴隷になるな

長田:いくら綺麗ごとを言っても「会社が利益をあげる=自分達が搾取される」という構造がある。そこをちゃんと自覚しないと、本当にみんな組織の奴隷になっちゃう。

怖いのはね、奴隷には奴隷なりの楽しみや幸せがあるということ。だからこそ、バランスを取って飼い慣らされてしまう。みんな自分のためにバランスを取っていると思っているけど、本当に心からそう思えてるのかな。

中川:でも、最近はフリーランス的に「やりたいを仕事にする」っていう流れも出てきていますよね。

長田:「やりたいを仕事にする」っていうアプローチもあるけど、個人と組織の関係の問題は、それとはまた別なんです。

会社には会社のアイデンティティがあって、個人には個人のアイデンティティがある。アイデンティティは存在しているだけで、全てを言葉にすることなんて出来ないんです。なぜなら体感・実感することを通して確認されるものだから。

よくNPOの支援組織なんかで働いてる若い子が「れんげ舎さんのミッションってなんですか?」って気軽に聞いてくるんだよ。そういうすごく大事なことを、相手に質問すれば答えてくれて、自分は理解出来るって信じ切っている。すごく切り詰められた世界観を生きているんだなって思うんです。

そうやってすべて説明可能・制御可能な世界って、ものすごく狭いよね。世界を矮小化することを通して、自分自身を矮小化しているんだよ。

場づくりは体得するもの

長田:本当の意味での場の力の源泉は、その場にいる人達の中で、個人の想像とか力量っていうものを軽く超えて働くアイデンティティなんです。そこでは個人のアイデンティティもちゃんと発揮されているし、同時に組織や場のアイデンティティも発揮される。そういう領域というのがあるんですよ。

中川:そうですね。普通の人のものじゃなくなっちゃうっていうか。

長田:場づくりって実感の世界だから。体得だね。なんかこの感じすごく好きだな、なんだかわかんないけど楽しいなって。ちょっと今苦しいけど、この苦しいのはちゃんと向き合ったらいいんじゃないか、苦しいけど嫌な感じじゃないとか、そういう実感みたいなものがこう、自分達の胸で感じられることが出てくると、理解してもらえるっていうか。

中川:頭で考えて獲得される世界とは違うということですね。

長田:そう。われわれは場づくりの支援までやっているけど、それをつかんでる人達は大勢いるんだよ。出来る人は大勢いる。でも、それを伝える能力はまた別なんだよ。

実践していないと伝えられないし、伝える力がないと伝えられない。両方必要なんだよね。れんげ舎にはその両方があるから、責任があるんだよ。やれる人には、やるかやらないか決める自由がある。決める自由があるなら責任があるんだよ。

中川:そう、だから最初に言ったように、場づくりを狭い文脈から救い出す必要があるわけです。

長田:簡単にまとめたな(笑)。

中川:次があるんです。問題意識その2が。(*次回へ続く)

\対談メンバープロフィール/

志摩彩香(しまあやか)
2013年にれんげ舎加入。場づくりクラスの企画・運営などに携わりつつ、近年は経営全般にかかわる。日本橋で会社員もやっている。れんげ舎公式note編集長。パン屋を見つけると必ずたくさんのパンを買う。

中川馨(なかがわかおる)
2017年にれんげ舎加入。子どもの活動から始まり、場づくり支援を経て、近年は経営全般にかかわる。全国的なNPO組織である日本NPOセンターで働きながら、れんげ舎にも全力投球。天性のいじられキャラ。

長田英史(おさだてるちか)
1996年の設立メンバー。NPO法人格のない時代に団体設立をして場づくりを仕事にしたパイオニア。全国で年間150回の講演。れんげ舎代表。
かわいいもの好き。特技は宴会ギター。


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